はじめに:IDEOとPanasonicに勤めたデザイナーの視座
本書の著者は、Forbes JAPAN世界で影響力のあるデザイナー39名にも選出された、多摩美術大学特任准教授の石川俊祐さんです。ロンドン芸術大学Central St. Martins卒業後、Panasonic Design Company, PDD Innovation UK, IDEOといった、国内外のデザインコンサルティングファームに所属していた経験から、日本人に向けたデザイン思考の解説と、日本人だからこそ実現できる「デザイン思考」を活用した未来が語られています。
本書の構成は、①デザインとは何か、②デザイン思考に必要なマインドセット、③デザイン思考の4つのプロセス、④デザイン思考を実行する組織と「個」のあり方、⑤デザイン思考 日本人最強説、といった流れになっています。
デザイン思考というマインドセット、アプローチ、プロセスは、輸入された概念ですので、日本人ならではのつまづくポイントがあります。いかにその問題をクリアして、日本人が武器としてデザイン思考を活用していけるか、社会の中で根付かせていくかが重要になります。
これまで:日本人がデザイン思考でつまづくポイント
わたしの職場でも今週からデザイン思考のワークショップが始まりましたが、本書で指摘されている日本人が陥りやすい問題には共感できるところがあります。
なぜ日本でデザイン思考が十分に広がらないのか。わたしが本書を読んで考えたり、実際に肌で感じている原因は、以下のようなものです。このような理由で、デザイン思考の実践が十分にできていないと感じているかたは、本書を読めばヒントを得ることができるでしょう。
- デザインという概念、または、デザイナーという職業を正しく理解していない
- 論理的、客観的、過去の実績を重視、といった創造性を阻害する考え方が根付いている
- ユーザよりも売上目標や自社のリソース、保有スキルを優先的に考える
- 欧米の職務給制度には存在しない総合職志向(非定型的な役務)
気づき:デザイン思考を武器にするために日本人に必要なこと
気づき①:根拠のない「自信」によって道は拓ける
こどもの頃を振り返ってみると、根拠のない自信に満ち溢れ、自分のやりたいと思ったことを信じて突き進んでいたように思います。それがいつからか、数字や前例、実績といった根拠があることを選択することが、1番正しいと思い込んでいることに気がつきます。
著者は創造性を発揮するためには、根拠を捨て「主観」や「クリエイティブ・コンフィデンス(自信)」を持つことがが重要であるということを、次のように説明しています。
もはや、主観で「おもしろ!」と思えるところにしか、受け手の驚きは生まれない。「実証できるものに優位性なし」で、客観的/論理的であることは、あたらしい価値を生み出すフェーズでは何のアドバンテージにもならないのです。
石川俊祐 HELLO,DESIGN 日本人とデザイン 2021
ロジカルな思考ばかりが求められてきた日本の社会人にとっては、真っ先に乗り越えなければならない壁であるように思えます。
気づき②:自立したプロフェッショナルであれ
本書でも指摘のあるとおり、日本企業ではジェネラリストのような「全方位に優秀な人」が評価されるケースが多いと感じます。(わたしも「ひとつの分野を極めたい」という思いを上司にぶつけたところ、選り好みせずに与えられる仕事をこなすことを諭され、まったく取り合ってもらえなかった経験があります。)
デザイン思考は異なる分野のプロフェッショナルがコラボレーションすることが前提になります。そこで生まれる「多様な視点」に価値があるためです。
では、デザイン思考に関わっていく人が、なにをするべきか。著者は、特定の分野で圧倒的に突き抜けることが大事であると言います。自分の得意分野であるコアスキルを作り、ほかの人とつながることが、大きな成果を生み出すための条件です。
気づき③:日本人の持つ自利利他の精神を見直そう
「おもてなし」は2013年の新語・流行語大賞にも選ばれた、日本人的精神の代表的なものです。こうした「自利利他」の精神こそが日本人の持つポテンシャルであると筆者は言います。「自利利他」とは、「自分自身のために努力すると同時に、他の人の役に立つ行いをすること」とのことです。
このおもてなしの精神を、単なる過剰サービスとしてではなく、本当の意味でユーザに価値提供できるようなことに使っていかなければならないのでしょう。
これから:本書を読んで実践すること
この本を読んで、今日から私が実践する3つのポイントです。
- 自分の創造力に自信を持つこと
- ひとつの分野に注力して突き抜けること
- 日本人のもつ自利利他の精神を見直すこと
ひとつめは、自分の創造力に自信を持つ、いわゆる「クリエイティブ・コンフィデンス」を実践していきます。もう少し、主観的に、楽観的なマインドを持つことを心がけようと思います。
ふたつめは、自分のコアスキルを磨くことに注力すること。そのためには、自分の得意なことに注力できるよう、弱さを含めてもっと自己開示をしていこうと思います。
三つめは、「誰かのために価値を生み出す」ということを意識して行動していくということです。
このような心掛けによって、「デザイン思考」が浸透した職場環境をつくっていきたいです。