本の紹介

ぼくらはデザインをしてもいい:「コ・デザイン」を読んで

はじめに:この本との出会い

わたしはデザインをすることが好きです。でも、この本を読むまでは、「素人のわたしがデザインに関わってもいいのだろうか」と、デザインをすることにどこか臆病になっていました。

デザインをしたいけれど、どのように関わればよいか分からない。そのような人に対して、デザインとは何なのか、そして専門家ではないわたしたちがなぜデザインに関わるべきなのかを、この本はやさしく教えてくれます。

本書のタイトルにもなっている「コ・デザイン」とは、デザインのエキスパートではない人に、デザインをひらいていく次のような取り組みのことです。

コ・デザイン(CoDesign)とは?

デザイナーや専門家と言った限られた人々によってデザインするのではなくて、実際の利用者や利害関係者たちとプロジェクトのなかで積極的にかかわりながらデザインしていく取り組みのこと。
Coは、接頭語で、「ともに」や「協働して行う」という意味。

https://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002509.html

本書は職業デザイナーになれる方法を教えてくれるわけではありません。しかし、デザインは一部のエキスパートのものだけではなく、多くの人々が関わるべきものだということを、やさしく解説してくれます。

その内容からは、わたしたちが自らのバックグラウンドを活かしながらデザインに関わっていくための、ヒントを得ることができるでしょう。

デザインに臆病だったこれまでの自分

わたしは日頃、システムエンジニアとして働いています。職業デザイナーではありませんが、デザインをすることがとても好きです。デザインに関わりながら生活できれば幸せだなと、毎日考えています。

システムの画面を設計したり、顧客へのプレゼン資料を作ったり、そういったデザイン色の強い業務をしているときには、非常にモチベーションが上がります。

このように、デザインをすることに楽しさを感じる一方で、どこかうしろめたさを感じることもありました。その原因は、「デザインはプロのデザイナーがするべきことであって、素人はデザインをするべきではない」という凝り固まった考えが、自分の中に根付いていたからです。

わたしは大学生のときに、デザインを仕事にすることを諦めました。きっとそのような過去が、デザインに対するネガティブな感情を植え付けたのだと思います。

デザインに興味を持つ人の中には、わたしと同じようにデザインに対して少々ネガティブな感情を抱いている人は、少なからずいるのではないでしょうか。

自分でデザインをしたものを批判されたことで自信を失ってしまった人。プロデザイナーとの実力の差を目の当たりにして卑屈になっている人。あるいは、自分には関係ないと、デザインをする前から諦めてしまっている人。

そんな人こそ、この本を読んでください。デザインは決してエキスパートだけが関わるものではないという考えが芽生え、きっと誰もが自分らしいデザインへの関わり方を見つめなおすことができるでしょう。

だれもデザインに関わっていい

著者が本書を「大きな見取り図」と例えるように、この本は「コ・デザイン」というテーマを掘り下げながら、デザインに関するとても広い範囲の内容を扱っています。その内容をすべてここで紹介することは難しいので、この本で得られた気づきを、わたしのバックグラウンドとあわせて少しだけ紹介させてください。

子供の頃から工作が好きだったわたしは、クリエイティブな仕事へのあこがれて、建築を学ぶために大学へ進学しました。大学での授業や生活の中で感じたのは、デザインで食べていくことは非常に難しく、厳しい道であるということでした。

卒業後は住宅やインテリアのデザインをしていきたいと思っていましたが、実力主義の世界でやっていく自信もなく、デザインを仕事にすることを諦めました。

そして大学卒業後は、将来性を感じていたIT業界へ進みました。システムエンジニアとして働きながらも、デザインを仕事にしたいという未練を断ち切れず、業務の中にデザインの要素を見つけては、これを自分の専門分野にできないだろうかと、絶えず考えている毎日でした。

しかし、専門家でもないわたしがデザインを仕事の中に取り込んでいくことは、とても難しいことでした。

わたしとあなたの「デザイン」に対するイメージは違う

「わたしはもっとデザインに関わる業務がしたいんです」と主張しても、職場でそのような意見を聞き入れてもらえることはありませんでした。最近でこそ、経済産業省が「デザイン経営」を推進するようになり、経営者も「デザイン」というキーワードを意識するようになりました。

しかし、ひと昔前までは、デザインは見た目をきれいに整える行為であるという理解しか示してもらえませんでした。

では、なぜデザインへの理解を示してもらえなかったのでしょうか。それは、「デザイン」という言葉を聞いてイメージするものが、人によって違うからです。そして、「デザイン」とはどういうものかということを、わたし自身が十分に理解できていなかったからです。そんなことでは、デザインの重要性を自分のことばで説明することはできません。

本書のよいところは、デザインを語ることは難しいという前提に立って、専門家でないひとにも分かるように、やさしく解説をしてくれているところです。では、デザインとは何なのでしょうか。

著者の上平先生は、デザインは概念だと説明してくれます。デザインをする対象は、時代によって変わるので、デザインという言葉が指し示す範囲も常に再定義され続けるということです。

著者がデザインの概念を説明する過程で引用している一節を紹介します。

現状をより好ましいものに変えるための行動を考案する人は誰でもデザインをしているのだ

ハーバート・サイモン

この文章の紹介をはじめ、著者はデザインという概念の広がりを解説してくれます。また、語義の広がりによる混乱を防ぐためのデザインの類型や、デザインの限界、デザインの両義性、「Design」という言葉が「デザイン」として日本に輸入された歴史などに触れながら、デザインの概観を示してくれます。

少なくともデザインは表面的な装飾だけをさすのではなく、行為であって、全体的なプロセスです。本書でデザインの概念を理解することができれば、自分がデザインを通じてやろうとしていることを、自分のことばで語ることができることでしょう。

あなたの知識や経験をデザインに活かすことができる

デザインの専門家でもないわたしが、デザインに関するブログを書いてみようと思えたのは、この本と出会えたことが大きいです。著者の上平先生は、デザインに関わる人たちに対して、とても心強い一節を書いてくれています。

特別な「スキル」を持たない人々であっても、なんらかのかたちでデザインのプロジェクトに貢献することができるような「チカラ」-言い換えれば「専門性」ーはあちことに埋もれていることに気が付かないでしょうか。

上平崇仁 コ・デザイン NTT出版株式会社 2020

こどもも、主婦も、わたしも、あなたも、その大小はあれど、みんな何かしらの専門性を持っています。そして、それをうまく組み合わせることができれば、デザインのプロジェクトでオリジナリティを発揮することができるのです。

先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代では、デザイナーのようなエキスパートに問題解決のすべてをゆだねていても、良い結果は得られなくなってきています。わたしもシステムエンジニアをしていますが、自分たちだけでシステムを作っていても解決できないことが多くなったと、肌で感じるようになりました。

このような時代に生きていくためには、わたしたちノンエキスパートが、卑下することなく主体的にデザインのプロジェクトに参加していくことが求められています。

これからわたしがデザインとどのように関わっていくか

このエントリーは、このブログで一番最初に書いた記事です。でも、最初の記事としてはふさわしくなかったかもしれません。この「コ・デザイン」のように、デザインを概念から説明するような本を紹介するには、わたしの文章力はまだまだ未熟でした。それでも、デザインに関わっていく第一歩として、勇気を振り絞ってこのエントリーを書きました。

「コ・デザイン」は、デザインのプロジェクトに参加したいというひとの背中を押してくれる、デザインの懐の広さを感じられる本です。ぜひ本書を手に取っていただきたいと思います。

これからのわたしは、本書に書かれているように、デザインを慈しみを生み出すような活動として捉え、どのようにデザインと関わっていくかを考えていきます。

ちょうど来週から、デザイン思考のワークショップが職場で始まります。職場の研修や社外のコミュニティでデザインのことを学びながら、職場、家庭、地域のコミュニティというように、デザインのフィールドを少しずつ広げていきたいです。

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