本の紹介

ノンデザイナーに向けたデザイン思考の教科書 - デザイン思考の授業 -

仕事や趣味にデザイン思考取り入れていくためにはどうしたらいいだろう。

最近はずっとそのことばかりを考えています。デザイン思考を勉強すればするほど、デザイン思考の魅力に気づくのですが、実践でしか身につかないという習得の難しさをあらためて感じさせられます。

自分のスキルや経歴を振り返り、「自分に何ができるだろう」と不安と焦りが募るばかりです。もしかしたら、デザイン思考を取り入れていきたいけど、そのきっかけがつかめないでいる人は意外と多いのかもしれません。

ここ2週間ぐらいは、頭で考えてばかりでブログも書けず、アウトプットができなくなっていたのですが、1歩ずつでも進んでいくために、また本の紹介からはじめようと思います。

犬も食わない自分語りはこれくらいにして、今回は「デザイン思考の授業」を紹介します。

ノンデザイナーからスタートした先駆者の本

今回紹介する本は、「世界のトップデザインスクールが教える デザイン思考の授業」です。本書は、2015年に出版された「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」の文庫版です。

共創型戦略デザインファームBIOTOPE代表の佐宗邦威さんは、イリノイ工科大学デザイン学科に留学し、「ビジネスマンがデザインスクールで学ぶ」ということを実践した、日本におけるデザイン思考の第一人者です。

本書では、ノンデザイナーがデザイン思考を実践するためのノウハウが解説されています。その内容は、 デザイン思考の概論、思考法、マインドセット、プロセス、ツール、キャリア、経営戦略、幸福といった視点で書かれており、デザイン思考の教科書といった感じです。

デザイン思考を実践していくためのコツや、デザイン思考に関わっていくキャリアの歩み方を探している人におすすめの本です。

こんな人におすすめ

  • デザイン思考を実践していくコツを学びたい人
  • デザインというビジネスキャリアを模索している人
  • 周囲の評価を基準にして仕事をすることに限界を感じているひと

ノンデザイナーが共感できるポイント

デザイン思考の実践が積極的に推進されている会社もあれば、まだまだこれからという会社もあるでしょう。

自分の職場がデザイン思考の実践に積極的でない場合、自分の生活に少しずつでもデザイン思考のエッセンスを取り入れていくためには、どのようなことをすればいいでしょうか。

わたしもデザイン思考を実践するために試行錯誤をしているところですが、これまでデザインとの関わりが少なかったビジネスマンが、デザイン思考を実践していくためのヒントがこの本には書かれています。

参考になると感じたポイントをいくつかピックアップしてみましょう。

デザイン思考を実践するための環境を整える

佐宗さんは、「デザイン思考を活用した創造的な問題解決の方法論」を実行する上で大切なのは「作りだす」環境を整えることだと解説しています。

デザイン思考の特徴は、言語、視覚、身体感覚といった全身の感覚を活用して創造性を高めるところにあります。周囲の物事から得た情報を記録し、整理し、発想するためには、持ち歩く道具を変えることが効果的であると紹介されています。

デザイン思考を1から実践しようとすると、そのプロセスばかりに目が行きがちです。しかし、プロセスのすべてを理解するまで実践できないのでは、なかなか習得が進みません。まずは、知的生産性をあげるために、身の回りの道具から変えていくというのは、入門者に優しい実践のコツです。

本書の中では、留学中に課題を1人でこなすために使っていたルーツが紹介されています。使い方はぜひ本書で確認してください。

創造モードへ切り替えてくれるツール類

  • ポスト・イット
  • 切り取り可能なスケッチブック
  • シャープペンシル
  • 太、細2種類の黒ペン
  • トレーシングペーパー
  • カッター
  • Mac
  • カフェモカ(眠気覚ましと糖分補給)

自分1人で実践できる創造の習慣

佐宗さんはイリノイ工科大学での留学経験を活かし、想像力を高めるための習慣として、次のようなことを実践しているそうです。

  1. 身のまわりの小さいものでも、自分にいちばんあった形に工夫して作り変えてみる
  2. 日々、スマホのカメラで、面白いなと思ったものを写真で撮って残す
  3. チームメートとのミーティングは、できるだけ「最近興味を持っていること」を最初に話す
  4. アイデアを思い付いたら身近な人にまず話してみる
  5. 2次情報を信じないで、会社を抜け出し現場に行って、人に聞いて判断する
  6. 現場の膨大な情報をブログに書いて発信し、それをネタに人に話す習慣をつける。説明をするために「なぜ」を考えざるを得なくなる
  7. いろいろな課題が見えてきたら、それを包括できるような大きな問いかけ「そもそもそれって何でやるの?」を考え、チームメンバーに質問する
  8. アイデアを思いついたら、「ポジティブに反応してくれそうな友人」2、3人にぶつけてから、他の人に話す
  9. フィールドワークに行くときは、バッファをもって、その場で知ったこと、紹介してくれた人にすぐに会いに行く

世界のトップデザインスクールが教える デザイン思考の授業,佐宗邦威,2020

すぐにでも実践できそうなものは、2.面白いと思ったものを写真で撮って残す、4.アイデアを思い付いついたら身近な人にまず話してみる、8.アイデアを思いついたら、まず「ポジティブに反応してくれそうな友人」に話す、といったあたりでしょうか。

どれも、創造性を高めるために必要な偶然性を自ら拾いに行くようなアクションですね。そうしてストックした情報が新たな発想を生み出すことに繋がるかもしれません。

また、6.ブログに書いて発信し、それをネタに人に話す習慣をつける、というのも納得です。わたしもブログを使ってアウトプットしながらデザイン思考を学んでいこうとしていますが、ワークショップに参加したまま、本を読んだままにするよりも、圧倒的に理解が深まるのを実感しています。

ビジネスとデザインの交差点におけるキャリア

ノンデザイナーである私たちがデザイン思考をキャリアの一部として取り込もうとした場合、どのようなキャリパスが考えられるでしょうか。

デザインスクールが目指しているのは、デザイン(What to do)、エンジニアリング(How to make)、ビジネス(How to maximize)といった能力をもつ「越境人材」、またはそこから派生する新たなスキルセットを持った職種の育成であると、本書では書かれています。

また、そういったスキルを持った人がつく職種を三つに分類しています。

  1. デザイン、エンジニアリング、ビジネスの交差点で生まれる新たな職業の出現
  2. 世の中にWHYを問いかけ続けるアーティスト的な起業家への道
  3. デザイン、エンジニアリング、ビジネスのコラボレーションを促すプロデューサー

では、こうしたデザインとビジネスが交差する領域でキャリアをスタートさせるためにはどうすればいいのでしょうか。筆者の考えでは、「ビジョンを持っている起業家型のクリエータと一緒に働くこと」が、最初のスタートととしては適切であると説きます。

コンセプトの言語化力、ビジネスモデルデザイン力、生活者の物語を編集して伝えていく力、プロセスデザイン、ファシリテーション力といった、自らのスキルを活用して、 起業家型のクリエータ のビジョンを実現させていくための支援をするということです。

わたしの場合は、残念ながらマーケティングのスキルも、ビジネスモデルを描くスキルもありません。最も近いのは、共創の仕掛人になるファシリテーターだと感じています。

キャリアを進めていくうえで、何のスキルを伸ばしていけばよいかのヒントを得ることができたのは、一つの収穫でした。

わたしがなぜデザイン思考に惹かれるのか

わたしは自分自身がなぜこうもデザイン思考に惹かれるのか、ということをうまく言葉にすることができていませんでした。しかし、その理由を本書で見つけることができました。

この本の最後の章であるLESSON7は幸福という章になっており、副題が「デザイン思考は幸せに生きるためのライフスキル」となっています。

デザイン思考を単なるイノベーションのための方法論として捉えるのではなく、人々が創造性を発揮して生きがいを感じながら毎日をすごすためのライフスタイルとして捉えているところに、ひどく共感を覚えました。

佐宗さんは、あるときビジネスマンとして仕事を続けていくことに自信を持てなくなり、鬱病と診断されました。そのときに次のように考えていたのです。

客観的と言われている他人の尺度で自分の行動を決めるのではなく、主観的な自分にとっての好き嫌いの尺度で測るような生き方に変える必要があることにはなんとなく気づいていました。しかし、それまでそのように生きてきたこともなかったので、どうやったら良いのかもわからなかったのです。

世界のトップデザインスクールが教える デザイン思考の授業,佐宗邦威,2020

実はわたしも仕事でメンタルダウンしてしまったことがあり、そのときに同様のことを考えていました。そして、自己分析をしてたどり着いたのが「デザイン思考」だったのです。

ですから、この本を読んで、デザイン思考を学んでいくことは、間違いではなかったなと確信しました。

業務の中でデザイン思考を使いながら、その成果を実感できるようになるには、まだまだ時間が掛かりそうです。

まずは、日常生活の中にデザイン思考のエッセンスを取り入れながら、キャリアの可能を広げていくことがから始めていこうと思います。

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